ー2029年開業予定の大阪IR事業は売上の80%をカジノが占めゲーミングに依存していることなど課題も多いが関西圏の経済波及効果は一兆円規模と試算され、恩恵は大きい。
世界のカジノ大手企業は、 ホテル設備や大型国際会議施設、 ショッピングモール、 舞台、 コンサートなどさまざまなエンターテインメントを充実させた複合リゾートとして展開し ている。
IRにおけるカジノの専有面積は小さいが、収益はその大部分を占め、投資誘引と観光産業の拡大が見込まれる。
日本では少子高齢化による人口減少で内需の限界が見られ、経済の起爆剤としてもIRは注目されており、世界的な成功事例のシンガポールを参考に大阪IR計画が進んでいる。
IR施設には数億円の投資が必要となる。
また、24時間営業、365日営業ということとカジノディーラーや補綴従業員など労働集約型の経済構造であるため一過性ではなく、継続的な経済効果が期待できる。
雇用創出効果もあり、カジノ税や法人税が入ってくることも国家としての魅力である。
<シンガポールの例>
シンガポールでは以前からカジノ導入による依存性・中毒性と青少年への悪影響が懸念されてきたが推進を後押ししたのは、2003年のSARSの流行による観光業へのダメージや世界的な大規模な都市開発の流れの中で、小国として国際的なプレゼンスを浮揚させる必要があった。
2010年に開業したが、IR建設で数億円の投資があり、IR開業以降、リニューアルのための追加投資が行われてきている。
また観光客数は増加し、国際会議の開催件数も増加した。
その結果GDPは増加し、幅広い産業に経済効果をもたらした。
世界のIRは差別化を図っているが、シンガポールにおいては都市国家という強みを活かした景観(綺麗な景色)を重視した広大な空中庭園やプール建設が特徴的である。
<具体的な導入の4つの経済的メリット>
(1)建設需要創出効果
2つのIRの開発コストは141億シンガポールドルにおよび、2009年のGDP比5%という莫大な経済効果をもたらした。
(2)新規雇用創出効果
両施設を合わせた新規雇用者数は2万人に達し、間接的な効果として、飲食、小売、造園、交通、警備など幅広い産業に好影響をもたらした。
(3)インバウンド効果
観光収入は2009年の126億シンガポールドルから49%増加し開業後の2010年には188億シンガポールドルとなった。来訪者も同時期に968万人から1160万人へ20%も増加している。
(4)MICE 振興
カジノが旅行先としての魅力を上げるが、カジノ事業の収益が単体では収支均衡が難しいと言われている大型 MICE 施設の整備・運営資金に 充てられている。
そこでMICE施設利用者がIR内の飲食・宿泊施設などを利用することにより、稼働率・収益率を上げ、カジノとMICE来訪者がIRの消費増大へ繋がっている。
*世界経済のネタ帳より引用。
<シンガポールから学ぶことーIR成功の立地条件>
(1)空港等の国際交通インフラとの近接性
IRのカジノ事業とMICE事業の魅力を高め、来訪者を増加させるには国際・国内交通のインフラ整備が重要である。
近くに京都という国際的観光都市やUSJもあり、上手く宣伝することで相乗効果は期待できる。
(2)都市圏の人口規模と住民の所得水準
IRは海外からの利用者のみならず国内の住民も利用するため、安定的な経済効果を維持するためには集中した都市圏への大きな人口規模と、住民の高い所得水準が必要である。
2022年のドルベースの一人あたりGDOはシンガポールが世界6位で82,807.65ドル、ラスベガスがあるアメリカは7位76,348.49ドルに対し日本は30位の33,821.93ドルと国内消費だけでは不安も残る。(大阪のGRP(地域総生産)は40兆円、平成29年度の一人あたり所得は318万円)大阪IRでは年間来訪者2000万人、売上5200億円を見込んでいるが、シンガポール2つのIR売上が50億米ドルであることを考えると達成できるか疑問も残る。
観光立国へ向けたインバウンドがどれ程増加するかに大阪IRの命運はかかってくるであろう。
(3)カジノ関連税制
カジノ事業はカジノ税、付加価値税、法人税にも大きな影響を受ける。
シンガポールのカジノ税制はプレミア会員(一定条件を満たした顧客)は5%、一般客は15%で富裕層取り込みには成功している。
これは中国を中心とした対海外富裕層ビジネス展開で有利な税制である。
これに対し大阪ではカジノ事業者に対し、国内者に対しては入場料及びカジノ行為粗利30%を国及び都道府県に納入義務があり事業者にとっては高い税率であるが入場者が予測通りに入ってくれば大きな経済効果は期待できる。
これは地域創生や社会福祉の財源になりうる。
<カジノ事業の負の側面と対策ーシンガポールの例から>
(1)カジノ業者に対する規制
カジノ規制庁のカジノ規制法に基づいて3つの対策を行っている。
カジノ事業者が行う主要な会計手続きや取引は、すべてカジノ規制庁の監視下に ある。規制庁が信頼性、財政力、経営等を検討してライセンスが与えられる。
マネー・ローンダリング対策 高額な取引には厳格な管理があり、本人確認や40にも及ぶ調査項目がある。
機器業者の管理 特定従業員、賭博客仲介業者、機器 業者には厳格なライセンス制が敷かれており、機器の交換修理には報告義務が課されている。
(2)ギャンブル依存症対策
入場制限 国家機関のNCPGが申請性の入場排除プログラムというものを導入し、ギャンブル依存者はリスクを負いたくない者の入場を禁止できる。それに加え、入場料が外国人は無料であるのに対し、自国民は1日150シンガポールドルという高額な入場料を課され、国内公告・宣伝にも制限がある。
事後対策 ギャンブル中毒対策に対する事後対策も徹底している。国家依存症管理サービス機構という専門機関を設け、中毒者に対するカウンセリングを行う。
当機関はカジノ以外のギャンブルも対象とし、ギャンブル依存症対策は大きく拡充した。
下の表からも見て取れるように、シンガポール当局の規制、対策が功を奏しギャンブル依存症者は減少した。
(3)オンラインカジノの台頭
コロナ禍、デジタル化の進展により、オンラインカジノやスポーツペッティングの市場が拡大している。米ゲーミング協会によるとアメリカのゲーミング収入の20%を占めるようになってきている。IT化の進化によりこの傾向は一層加速すると考えられ、カジノ以外の収益源にも頼ることができる構造にしないと大阪の試算は達成できないであろう。
(4)オンライン会議の浸透
国内最大規模の国際会議場を建設予定であるがコロナによりオンライン会議が世界的に浸透している。この流れがMICEに悪影響を与えると考えられる。
(5)海外IRとの競合
コロナ禍以前、関西への海外からの旅行客の80%ー90%は中国・台湾・韓国等・台湾・ASEAN出身であった。
アジアにはマカオやシンガポールなど多くの競争相手がいる。
IRがインバウンドの純増に繋がらなければ従来地域に落ちていたインバウンドマネーがIR内にシフトするだけになる。
海外からの旅行客が過ごしやすい環境整備が必要となるであろう。
<カジノIR導入の結果>
シンガポールでは、IR の開業により、観光客数の増加、 税収の増加の恩恵を手に入れながらも、ギャンブル依存症対策の拡充により導入当初に懸念された負の側面を克服し、IR のメリットを享受することに成功しています。
<IR施設の設置により経済的に恩恵を受ける業種と想定される効果の例示>
出所:IR導入を検討する各自治体が公表する資料等を参考にデロイト トーマツにて作成
執筆 らいと証券アドバイザーズ株式会社 辻本
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